日本生気象学会
Japanese Society of Biometeorology
Japanese Society of Biometeorology
生気象学(Biometeorology)の概念が生まれたのはかなり古く、すでにヒッポクラテスの時代にその記載があるくらいであるが、それが学としての体系をととのえたのは、1955年、パリにおいて国際生気象学会の第1回の総会が開かれたときである。そのとき発表された生気象学の定義は、次のとおりである。
「大気の物理的、化学的環境条件が生体に及ぼす直接、間接の影響を研究する学問が生気象学である」
そしてその学会の創始者であり、かつ総務幹事であるオランダのS. W. Trompは、
その著「Medical Biometeorology」において生気象学の研究分野を次の5つに分類した。
その後、1964年にSargent IIとTrompの2人の監修のもとに発行された「A Survey of Human Biometeorology」において「Biometeorologyとは生態学(Ecology)の一分野であって、植物の根の生えている土壌環境より胞子の飛んでいる大気に至るまでの自然環境の他に、ビルディング、地下道、潜水艇、人工衛星等の人工環境をも含めての環境の物理的、化学的条件の生体に及ぼす影響を研究する学問である」と定義している。内容的には同じようなことではあるが、生態学の概念を入れたことにより、その学問的体系が明瞭となり、かつより広い意味になってきたわけである。
わが国において生気象学会が発足したのは1962年12月であるが、それ以前において存在した日本気象学会の生気候分科会、環境生理集談会、国際生気象学会日本支部等の集団が統一されて生まれたのである。そのような過程のもとで、いままでのわが国において発達した生気象学の研究業績の集大成を行うことはこの学問の重要性を広く一般に知らしめる意味において、そしてまた日本生気象学会の発展の一里塚として、意味深いことである。ことに本書に寄せられた記載は、医学者、生物学者、気象学者、農学者の権威の方々の手になるもので、さきのTrompの分類にある諸分野を網羅するのみならず、わが国の気象学的におかれた特殊な立地条件に由来して発達してきた気象病理や農業気象に関する業績を多分に盛り上げていることは、本書の国際的な学的価値を高めたものといってよいのであろう。ことに「生気象学としてこのように広範囲の領域にまたがる総説を行ったものは、世界で初めての試みである点はなによりもその学的価値を不抜のものとしている。
終わりに本書の刊行にご協力いただいた執筆者諸氏に対しそのご苦労を深謝するとともに、このような純学術図書の刊行を快くお引き受けいただいた紀伊国屋書店に対し深く感謝する次第である。
昭和43年1月
日本生気象学会会長
京都府立医科大学
医学博士 吉村寿人