
日本生気象学会
Japanese Society of Biometeorology
長野和雄(京都府立大学)
兵庫県三田市には大正時代から伝わる「ウド小屋」があります。その伝統的な野菜栽培の環境への負荷を、現代のビニールハウス栽培と比較した研究を紹介します。
三田市のウド小屋栽培
ウドは日本原産の野菜で、天然物の山ウドや遮光・加温して白く柔らかく育てた軟白ウドが春先に出回ります。軟化栽培の方法にはいくつかあるのですが、中でも三田市に残る伝統的な方法は独特です。日差しを遮るために、稲刈り後の田んぼにほぼ全体を稲藁で覆った小屋を建てるのです(写真1)。小屋の中でウドを温めるのにも電気を使わず、被せた藁や乾草に水を撒いて発酵させた熱を利用します(写真2)。使用後の藁は畑の肥料にするので、無駄がありません。ただ、効率を重視する現代では、多くの農家がビニールハウスと電熱線を使った栽培に切り替えており、ウド小屋で栽培を続けているのは2020年時点で13軒中わずか2軒だけになっています。
環境への影響を比較
研究では、栽培から消費者の手に届くまでの全過程での、二酸化炭素排出量を分析しました。その結果、ウド1kgを作るのに、
– ウド小屋栽培:4.50 kg
– ビニールハウス栽培:7.26 kg
つまり、気候変動への影響を表す指標である二酸化炭素を、ビニールハウス栽培では1.61倍も多く排出することがわかりました。この差の主な原因は、ビニールハウスでの電気による加温と、断熱材として用いる発泡スチロールなどの石油系材料です。
ほかにも、酸性雨の原因となる物質や資源消費量など、13項目中10項目でウド小屋栽培の方が環境に優しいという結果でした。
価値と課題
小屋が建つ11月頃からウドが旬を迎える3月頃まで、三田の風物詩として地元メディアに毎年登場します。そこで語られる魅力は、
– 風土的景観:他のどこにもない特徴的な藁葺き小屋のある風景
– 品質:ウド小屋で育てたウドはより香りが良く、柔らかい
の2点に集約されます。これに、環境に優しい、今風に言えばSDGs的にむしろ先進の栽培方法であるという新たな価値を、本研究によって加えることができました。
一方で、課題もあります。
– 労働時間:ビニールハウスより41時間多く手間がかかる
– 収穫量:同じ面積でもビニールハウスの約77%しか穫れない
– 材料不足:コンバインの普及で粉砕され、束状の藁が足りない
– 後継者不足:『こんな手間のかかるやり方、みんなせえへん。』(農家の声)
より手間をかけたのに収量が落ちる。味は良くても、ハウスものと同じ値段で販売される。これでは、ウド小屋の数が減るのも無理もありません。
伝統の、新しい魅力
地球環境への配慮が益々求められる今、この「環境に優しい」という価値は、「伝統の風景」「優れた品質」と並ぶ重要な魅力となるでしょう。
もし「藁小屋育ち」のウドが、その価値に見合う値段で売れ、手間に見合った収入が得られるなら、ウド小屋の伝統を未来の世代に引き継いでいけるかもしれません。
みなさんは、「藁小屋育ち」のウドをいくらの値段なら買いますか?

写真1 ウド小屋の外観

写真2 中の様子。こまめに温度管理し、ウドに覆い被せた稲藁の上にメモを置いている
<本コラムで紹介した研究論文>
長野和雄, 押尾健吾(2024)兵庫県三田市におけるウドの伝統的栽培方法の環境影響評価. 日本生気象学会雑誌, 第61巻:65-77. https://doi.org/10.11227/seikisho.61.65