日本生気象学会

Japanese Society of Biometeorology

生気象学コラム

天気痛が起こりやすい地域と気圧の話

大塚靖子(株式会社ウェザーニューズ)

 雨が降ると頭痛がする、台風が近づくと古傷が痛むなど、天気の変化によって体調が悪くなることはありませんか。天気の変化による頭痛をはじめとする体調不良「天気痛」に悩まされる方は全国で推計1,000万人以上いると言われています。天気痛の実態について調査するため、スマホアプリ「ウェザーニュース」を通して実施したアンケート「天気痛調査2023」内で、「気圧・気温・湿度・天気・風のうち、天気痛に関係している気象要素は?」と尋ねたところ、気圧という回答が8割を占めました。天気の中でも特に気圧による体調不良を感じている方が多いようです。

 日本列島は南北に長く、北の亜寒帯から南の亜熱帯まで変化に富んだ気候区分に属しています。また、山が多く、海に囲まれている地理的な影響もあり、地方や地域により気象特性は様々です。そこで、天気痛に地域差があるかを調べるため、同アプリ『天気痛予報®︎』に寄せられた症状報告のデータ(期間:2020年6月1日〜 2022年12月31日、報告数:434,409件)を都道府県ごとに集計し、天気痛による痛みを報告した人の割合と気圧との関係を調査しました。気圧の検証には「低気圧の接近による気圧低下」、微細な気圧変動である「微気圧変動注1)」、毎日決まった時間に上昇・下降を繰り返す「半日周期の気圧変動注2)」という3種類の気圧の指標を用いました。

『天気痛予報®︎』(左)と症状報告の画面(右)

 その結果、天気痛による体調不良の報告の割合が多かった都道府県の上位5位は、山形県、山梨県、宮崎県、鹿児島県、徳島県でした。1位と2位の山形県、山梨県では3種類の気圧の指標のうち2種類が47都道府県の上位30%以内に入っていました。また宮崎県と鹿児島県では、1種類の指標が上位30%以内に入っており、天気痛を感じた人の割合が多かった上位4県では、3種類いずれかの気圧変動が全国の中でも大きいことが分かりました。ただ、5位の徳島県ではいずれの気圧の指標も上位30%には入っておらず、どの気圧の指標についても強く影響を受けているとは判断しがたい結果となりました。この調査では、天気痛とその原因の一つである気圧の変動には地域差があることを確認できた一方、気圧の影響だけでは説明できない場合があることも明らかになりました。

天気痛を感じた報告の割合

 天気痛は、気圧やその他の気象要素、個人の体質、日々の体調が複雑に絡んで起こります。天気痛の解明と症状予測の精度向上を目指し、気圧以外の要素についても検証を行い、天気痛の事前対策に役立つ情報の提供に取り組んでまいります。


1)微気圧変動
低気圧接近時や積乱雲の発生時、山越えの気流の影響で発生する気圧変動。 微気圧変動に伴う気圧変動は1hPa以下と非常に小さいが、台風や低気圧の接近前から天気痛を引き起こす要因として考えられている。

2)半日周期の気圧変動
昼間と夜間の大気の温度差や地上付近の気温変動が要因となっている半日周期の気圧変化。毎日決まった時間に数hPa程度の気圧の上昇と下降を繰り返しており、この変動が通常より大きくなった時に天気痛の引き金になると考えられている。

【参考文献】

  1. 佐藤純:天気痛〜つらい痛み・不安の原因と治療方法〜, 光文社新書, P.22, 2017.
  2. ウェザーニューズ 2023:天気痛調査2023, https://weathernews.jp/s/topics/202306/080115/

<本コラムで紹介した研究論文>

大塚靖子,佐藤純:「天気痛予報」利用者の症状報告データから分析した天気痛の地域特性および気象的要因に関する考察 2023,日本生気象学会雑誌, 60(1) ,p.15-22, 2023.https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikisho/60/1/60_15/_article/-char/ja

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