日本生気象学会
Japanese Society of Biometeorology
Japanese Society of Biometeorology
櫻井博紀(常葉大学)
近年、地球温暖化といった要因により気候変動が大きく引き起こされており、洪水・暴風雨・干ばつ・熱波などさまざまな問題が生じています。それによる熱中症や感染症のリスク増大が報告されており、さらに、生活習慣や環境汚染などに関連して引き起こされる各種の慢性疾患についても気候変動との関連性の報告があります。
痛みが慢性的に続く慢性痛の方の中にも、気象の変化、たとえば、雨の降る前や寒くなったとき、季節の変わり目などに症状が悪化することを訴える方がいます。昔から雨が降ると古傷が痛むといったように、天気と痛みは関係があるのではないかということが考えられています。このような気象の影響を受けて発症したり悪化したりする慢性の痛みを「天気痛」と呼んでいます。天気の影響を受けやすい疾患としては関節リウマチ、変形性関節症、頭痛、肩痛、腰痛症、線維筋痛症といった慢性痛疾患の報告が多く、天気の変化と痛みの程度に有意な相関性も報告されてきています。
天気痛の治療は、薬物療法に加えてリハビリテーションを組み合わせていくことが多くあります。このリハビリテーションを加えることで、どのような効果があるのでしょうか?そこで、天気痛の患者さんを対象にして、薬物療法だけの方と、薬物療法に加えてリハビリテーションを行っている方に対して、初診時およびフォローアップ時に、痛みの程度(NRS)、痛みによる生活機能障害の程度(PDAS)、破局化思考(痛みにより極端にネガティブな考え方をしてしまう)の程度(PCS)、不安・抑うつ傾向(HADS)、自己効力感(PSEQ)を調査しました。
その結果、薬物療法のみの群(Med Group)、および、薬物療法とリハビリテーションを行った群(Med+Reha Group)のどちらも、痛みの程度の減少、生活機能障害の減少、および、破局化思考の減少が同程度にみられました。つまり、どちらの療法でも痛みの軽減、生活機能の改善、痛みの認知の改善がみられることが分かりました。それに加えて、薬物療法とリハビリテーションを行った群では、不安・抑うつの抑制効果と自己効力感の改善もみられ、前向きな考え方になっている可能性が考えられました。
天気痛では、気象という自己コントロールできない要因により症状が左右されるため、抑うつ傾向や自己効力感低下になりやすい状態が考えられます。天気痛の治療として薬物療法に加えてリハビリテーションを行うことで、身体運動を促し、痛みにより活動が低下してしまった状態から脱却することにつながること、また、活動できることによる成功体験を積み重ねることで自己効力感の改善につながることが考えられます。このようにリハビリテーションなど体を動かしていくことで、身体的にも心理的にも良い影響をおよぼすことが期待できます。
【参考文献】
1. 地球温暖化と感染症,環境省気候変動影響評価報告書, 2020, 環境省.
2. 櫻井博紀,佐藤純,牛田享宏 2018:運動器慢性痛における気象の影響,日本生気象学会雑誌55(2), 77-81.
<本コラムで紹介した研究論文>
3. 櫻井博紀,佐藤純,青野修一,牛田享宏 2023:気象変化により影響を受ける慢性痛に対するリハビリテーションの有効性 -自覚的感覚尺度を用いた評価-,日本生気象学会雑誌60(1), 7-14.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikisho/60/1/60_7/_article/-char/ja