
日本生気象学会
Japanese Society of Biometeorology
松本孝朗(中京大学)
日本生気象学会「気象病・天気痛研究委員会」は2021年に発足し,気象変動と健康との関係,気象病•天気痛の理解と解決を目的としています。
第1回国際生気象学会(1955年、パリ)において、「生気象学」とは「大気の物理的、化学的環境条件が生体に及ぼす直接、間接の影響を研究する学問」と定義付けられました。その対象をヒトに限定すると、「気象病・天気痛研究委員会」の研究領域はその重要な部分を占めています。

「生気象学の事典」(日本生気象学会 編、1992年)では、生気象学全般の222の項目について記述・解説しており、今日的な意味の「気象病・天気痛」につながる項目が相当数見られます。その中から、季節や気象がその発症に影響する病気を「季節病・気象病」として抜き出したものが下の表です。
| 冬に増加する病気 | 狭心症・心筋梗塞(虚血性心疾患)、脳卒中、インフルエンザ、かぜ症候群、感染性胃腸炎、△肺炎 |
| 春に増加する病気 | ◎アレルギー性鼻炎 |
| 夏に増加する病気 | ◎熱中症(暑熱障害)、食中毒、自殺 |
| 前線通過時に頻発 | △気管支喘息発作 |
| 雨が降る前に、低気圧が来る前に | 天気痛:リウマチ、関節炎では、雨が降る前に、低気圧が来る前に、その痛みが強くなる |
アレルギー性鼻炎(花粉症)は1992年当時に比べ、近年ではその有病率が大きく増加し社会的重要性が増しています。熱中症(暑熱障害)もまた同様です。熱中症(暑熱障害)は、本学会の熱中症予防研究委員会がその研究テーマとして取り組んでいます。
「生気象学の事典」では、肺炎は冬季に多い,気管支喘息発作は前線通過時に頻発するとの記載が見られますが、近年の内科学の成書ではそのような記載は見られず、病気の病態生理の解明が進み、気象との関連の意義は薄まったものと思われます。
常に痛みを抱えている慢性疼痛の患者では,“雨が降る前に、低気圧が来る前に痛みが強くなる”現象を「天気痛」と言います。「生気象学の事典」においても、リウマチと関節炎の項に「天気痛」が記載されています。しかし、関与する気象要因の種類やメカニズムについては明らかでありませんでした。近年、佐藤 純らのグループは、わずかな気圧の低下を内耳前庭部で感知し、交感神経系を刺激することが「天気痛」につながることを示しました。こちらは、天気痛の誘因として、気圧の低下という気象要因が関与していることがより明確になった事例と言えます。
ある種の抗めまい薬には内耳の血流量増加作用があり、その内服により天気痛を抑える効果が期待されています。筆者は内科医であり,内科外来において,鎮痛剤の常用が必要な慢性疼痛の患者を約20名診療しています。その多くは中高年者の変形性脊椎症や変形性関節症ですが、帯状疱疹後神経痛や複合性局所疼痛症候群という強い痛みを訴える患者も含まれます。このような患者の約半数に天気痛の訴えがあり,天気痛の抑制の目的で抗めまい薬の投与を試み、おおむね有効の印象を得ています。
【参考文献】
https://seikishou.jp/research-committee
【本コラムで紹介した論文】
生気象学の事典から見た「気象病・天気痛」,松本孝朗.日生気誌 60(1): 5-6, 2023.