
日本生気象学会
Japanese Society of Biometeorology
重田 祥範(公立鳥取環境大学)
都市部での人工排熱やアスファルト・コンクリート被覆の増加は蓄熱効能を増大させ、都市の高温化を促進しています。そのため、都市部と郊外の気温差は拡大し、熱中症や睡眠障害といった健康被害が発生します。この生活環境の改善には気温上昇の要因を取り除く必要がありますが、人間活動や都市構造を変えることは容易ではありません。そこで考えられた対策の一つが、都市の利便性を残しつつ、気温上昇を緩和させる緑地の導入です。緑地は都市部よりも低温な環境が形成されやすく、「クールアイランド」として知られています。そのような中、丸田(1972)は、クールアイランドの発生と同時に、緑地内で生成された冷気が緑地から周辺都市部へと向かって放射状に吹き出す「にじみ出し現象(Park breeze)」を発見しています。
都市内にある大規模緑地は、新宿御苑をはじめ、日本各地に存在します。そのうち、大阪市内にある大阪城公園は総面積105。6haを有する広大な都市公園であり、公園内には芝生地や濠などがあります(図1)。園内には、サクラやウメなどの落葉樹を中心に様々な種類の植物が植樹され、花見や堀の水辺に集まる野鳥を求めて多くの人々が訪れ、市民から愛されています。
図1.都市の中心部に存在する大阪城公園
そこで、大阪城公園を対象に気象観測を実施して、都市への冷却効果を調査してみました。その結果、大阪城公園のクールアイランド強度(公園内外の気温差)は、午前4~5時のあいだに+2。0℃以上(最大+2。8℃)でした(図2)。また、冷気は公園東縁から都市部に流出しており、その影響範囲は最大で約250mでした。さらに、冷気の生成場所を特定すると、放射冷却によって芝生地で生成された冷気が樹林地まで輸送されるよりも、樹林地の樹冠上部で生成された冷気が地表付近へと沈降し蓄積した可能性が高いことがわかりました。
このように緑地が都市部よりも低温であることはわかりましたが、新たに都市内に大規模緑地を設置することは容易ではありません。そのため、現存する緑地をいかに効果的に活用するかがヒートアイランド緩和策の課題となります。しかしながら、緑地が大気を冷やすメカニズムは、夜間と日中で大きく異なります。特に日中は必ずしも公園の気温が低くなるとは言えません。つまり、緑化を施したにもかかわらず、その地域の気温低下に貢献しにくいという現象が起こり得ます。そのため、緑地をヒートアイランド対策に導入する場合には、その費用対効果を十分に検討する必要があります。
図2.大阪城公園のクールアイランド強度
【参考文献】
<本コラムで紹介した研究論文>
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikisho/50/1/50_23/_article/-char/ja