
日本生気象学会
Japanese Society of Biometeorology
東海林孝幸(豊橋技術科学大学)
近年、猛暑日が大幅に増え、それに伴い熱中症による救急搬送件数も増加しています。熱中症搬送を発生場所別にみると、「住居」が全体の約4割、年齢に着目すると高齢者(満65歳以上)の搬送が全体の約5割を占めていることから、住宅内の高齢者をいかに熱中症から守るかが重要になるといえます。
本研究では愛知県豊橋市消防本部より提供を受けた救急搬送データを用いて、1)空調使用の有無別に熱中症による救急搬送件数を119番通報の時刻別に調べることで一日の熱中症搬送の特徴を明らかにし、2)熱中症の重症化を空調使用によりどの程度抑えることが可能かを調べました。対象年齢は60歳以上です。
まず、1)について図1に示します。図の横軸は消防署が119番通報を受けた時間(覚知時刻)、縦軸は住宅で発生した熱中症件数です。棒グラフのグレーの部分は「軽症(Mild)」、黒の部分は「中等症以上(Moderate or severe)」の熱中症を表します。なお、図1は救急隊員が現場に到着したときに空調が使用されていなかった場合の搬送数を表しています。図より、午前7時台から搬送数は急増し、午前9時台にピークを持つ山型となりました。さらに、中等症以上の割合も午後より高くなりました。この原因として就寝中の空調不使用が室内の高温化をもたらし、熱中症の発症につながったこと、さらに発症が深夜・早朝であるため周囲から気づかれにくく、119番通報が遅れて重症化を招いたためであることが考えられます。
図1 空調不使用時における熱中症搬送件数の推移
次に2)について、先行研究より空調を使用することで熱中症による死亡リスクを減少させることが明らかになっています1)。このことは死亡リスクだけでなく熱中症の重症化リスクも抑制できることが期待されます。図2は空調利用によりどの程度重症化リスクを抑えることができるかを示しています。図の横軸は各年齢区分、縦軸は熱中症が中等症以上となる確率を示します。黒いバーは空調不使用、グレーのバーは空調使用を表します。図に示す通り、空調使用でも中等症以上となる確率はゼロではありませんが、空調不使用時よりかなり低くなることが分かります。また、高齢であるほど空調不使用時には重症化しやすいことも分かります。
図2 各年齢区分における空調使用・不使用時の重症化リスク
以上より熱中症対策を空調使用の観点からまとめると、住宅内の高齢者の熱中症を防ぐには日中の気温が高い時間帯だけでなく就寝中も適宜空調を使うこと、重症化を防ぐために空調の使用は高齢であればあるほど重要であることが分かりました。
【参考文献】
1. Semenza JC.,Rubin CH,Falter KH.,Selanikio JD.,Flanders WD,Howe HL.,and Wilhelm JL. (1996): Heat – Related Deaths during the July 1995 Heat Wave in Chicago. N Engl J Med (335): 84-90.
<本コラムで紹介した研究論文>
東海林孝幸, 切通海斗, 井原智彦:住宅内熱中症の入電時間別搬送件数の調査および空調機器使用による熱中症の重症化抑制効果の定量的評価,日本生気象学会雑誌 59(3・4), 115-122, 2022.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikisho/59/3-4/59_115/_article/-char/ja