日本生気象学会

Japanese Society of Biometeorology

生気象学コラム

アイススラリー摂取時の環境温度の違いが深部体温に及ぼす影響

刑部 純平(愛知みずほ大学)

 深部体温の過度な上昇は、熱中症の発症リスクを増大させることや持久的運動パフォーマンスを低下させる可能性があります。このような背景から、暑熱環境下での運動開始前に身体を冷却して、あらかじめ深部体温を低下させておく方法があります。これを「プレクーリング」と呼びます。

 プレクーリングには様々な方法がありますが、アイススラリー(スポーツドリンクをスムージー状にしたドリンク)を暑熱環境下での運動開始前に摂取することで、深部体温が低下し、その後の持久的運動パフォーマンスが向上する可能性が示唆されています。

アイススラリーの摂取量を増やすことで深部体温を大きく低下させることが期待できます。しかし、一度に大量のアイススラリーを摂取することで、下痢などの胃腸の不調や頭痛を引き起こす可能性があります。

 暑熱環境(環境温度が皮膚温度よりも高い)では、身体からの熱放散が妨げられると同時に熱伝導によって熱が体外から体内へ吸収されます。そのため、暑熱環境では、アイススラリー摂取による深部体温の低下効果が低減してしまう可能性があります。一方、涼しい環境でアイススラリーを摂取することで、より大きな深部体温の低下が期待できるのではないでしょうか?

 そこで、アイススラリーを摂取する環境温度に着目をして、深部体温の推移をモニタリングしてみました。

  • HOT条件:室温35℃、相対湿度30%に設定した人工気象室でアイススラリー摂取
  • COOL条件:室温25℃、相対湿度30%に設定した人工気象室でアイススラリー摂取
  • CON条件:室温35℃、相対湿度30%に設定した人工気象室で冷飲料(4℃)摂取

その結果、深部体温(最大の低下量)は、HOT条件では-0.36℃、COOL条件では-0.66℃、CON条件では-0.13℃低下しました。つまり、エアコンが効いた涼しい室内でアイススラリーを摂取することで、より大きなプレクーリング効果(深部体温の低下)が期待できることがわかりました。

また、COOL条件では、アイススラリーを摂取してから60分後の時点においても依然として深部体温は大きく低下したままでした(摂取前から-0.6℃)。

 アイススラリーの推奨摂取量は、体重1kgあたり7.5g程度(体重70kgの人で525g)であり、決して少ない量ではありません(ペットボトル1本分のスムージーを飲むのは結構大変だと思います)。一方、涼しい環境(エアコンの効いた室内など)であれば、アイススラリーの摂取量が推奨量よりも少なくても、ある程度のプレクーリング効果が期待できると思います。そのため、アイススラリーを用いたプレクーリングを実施する場合は、可能な限り涼しい環境でご自身に最適な量のアイススラリーを摂取することをお勧めします。

【参考文献】

1. Siegel R, Maté J, Brearley MB, Watson G, Nosaka K, Laursen PB. Ice slurry ingestion increases core temperature capacity and running time in the heat. Med Sci Sports Exerc. 2010. 42(4):717-25.

2. Siegel R, Maté J, Watson G, Nosaka K, Laursen PB. Pre-cooling with ice slurry ingestion leads to similar run times to exhaustion in the heat as cold water immersion. J Sports Sci. 2012. 30(2):155-65.

<本コラムで紹介した研究論文>

刑部 純平, 松本 孝朗, 梅村 義久. アイススラリー摂取時の環境温度の違いが体温と主観的温度感覚に及ぼす影響. 日本生気象学会雑誌57巻1号: 25-31.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikisho/57/1/57_25/_article/-char/ja/

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